よく検索されているワード
新社会人おめでとう キャッチコピー
人生の扉って、いつだってあなたのすぐそばにあるんですよ。
僕が大学二年の頃の話。
演劇学科に入った理由は、他の志望校に受からなかったから。他の志望校に受からなかった理由は、受験勉強が嫌いだったから。友達が受けるというので、自分もノリで受験したその大学だけなぜか合格してしまい、舞台なんかほとんど観たことがなかったのに、僕は演劇学科に通うことになりました。
映画少年でした。十四歳の時にスピルバーグ監督の「ジョーズ」を観て、こんなに面白いものが世の中にあるのか、と感動。しかし大学で学ぶシェークスピアにもモリエールにも、「ジョーズ」のワクワクはありませんでした。演劇は難しいもの、というイメージが自分の中に定着しました(本当はそんなことないんですけどね。)
先輩が作った劇団に、半ば強制的に入らされ、役者として舞台に立ちました。難解な不条理劇で、演じていてもなんのことやらさっぱり。ナイフで刺されたのにずっと喋り続け、息絶えたかと思ったら、いきなり立ち上がって踊り出す。こういう世界には向いてないと確信。自分で劇団を作りたいと言って、退団しました。
そんな流れで仲間と劇団を旗揚げ。でも、お客さんは入らなかった。誰が観ても楽しめる作品が作りたかったのに、誰が観ても退屈なものしか作れなかった。力量不足でした。
それでも劇団は続けました。授業に興味がなかったので、そこから逃げていたのかもしれません。芝居をするにはお金がかかる。バイトを始めました。深夜のデパートで、夜通しマネキンを移動させる仕事。お金にはなりましたが、自分にはもっと向いている仕事があるような気がしてなりませんでした。授業は難しい、劇団は赤字、バイトは辛い。とまあ、簡単に言ってしまえば八方塞がりの日々でした。
学食の扉の前の大階段に座って、春の暖かい日差しの中で菓子パンを食べていました。どうしてそんなところに座っていたのかは、覚えていません。焼きそばパンが喉に詰まってゲホゲホと咳き込みながら、学食の大きなガラス扉を開けて中に入り、給水機のお茶を飲みました。ふと見ると、壁の掲示板にバイト募集の紙がびっしりと貼ってありました。その前に僕と同じ八方塞がりの学生がたむろしています。喫茶店のホール係であるとか、家庭教師募集とか。その一枚が僕の目に留まりました。赤いサインペンで書かれていた文字は今でもはっきり覚えています。「君もテレビで働いてみないか」。放送作家の事務所が、クイズの問題を作る若い人を集めていたのでした。僕は急いで連絡先をメモしました。それがテレビの世界に足を踏み入れた第一歩でした。
人生の扉って、いつだってあなたのすぐそばにあるんですよ。
今日、冒険の1ページ目。新社会人おめでとうございます。
人生の扉 三谷幸喜 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 新社会人新聞広告 2025年
空っぽのグラス諸君。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな服装をして、どんな職場へ行ったのだろうか。たとえどんな仕事についても、君が汗を掻いてくれることを希望する。冷や汗だってかまわない。君は今、空っぽのグラスと同じなんだ。空の器と言ってもいい。どの器も今は大きさが一緒なのだ。学業優秀などというのは高が知れている。誰だってすぐに覚えられるほど社会の、世の中の、仕事というものは簡単じゃない。要領など覚えなくていい。小器用にこなそうとしなくていい。それよりももっと、肝心なことがある。
それは仕事の心棒に触れることだ。たとえどんな仕事であれ、その仕事が存在する理由がある。資本主義というが、金を儲けることがすべてのものは、仕事なんかじゃない。仕事の心棒は、自分以外の誰かのためにあると、私は思う。その心棒に触れ、熱を感じることが大切だ。仕事の汗は、その情熱が出させる。心棒に、肝心に触れるには、いつもベストをつくして、自分が空っぽになってむかうことだ。
それでも諸君、愚痴も出るし、斜めにもなりたくなる。でもそれは口にするな。そんな夕暮れは空っぽのグラスに、語らいの酒を注げばいい。そこで嫌なことを皆吐き出し、また明日、空っぽにして出かければいい。案外と酒は話を聞いてくれるものだ。
一杯の語らい。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 2000年4月の初回原稿 最終回 新社会人新聞広告 2024年
ハチャメチャでもかまわない。挑む人になれ。
新社会人おめでとう。今日、君はどこの街で、どんな職場に立っていますか。どんな職場であれ、そこが君の社会の出発点だ。どんな仕事をしたいかい?どんな社会人になりたいですか?君たちは何にだってなれるし、どんな仕事にも挑戦できる。私たちは男女の格差などない、学歴偏重のないスタートラインを引いて、君たちを待っています。君たちは今、鉄で言えば情熱という熱であふれた原石です。どんなカタチにも、どんな大きさにもなれる。挑むことは可能性への第一歩だ。可能性とは今の世界を変える力だ。今の世界ではダメだと皆気付いている。戦争は人間の最大の愚行だ。人の苦しみを無視してはいけない。変える力が必要なんだ。変える力の源泉は、勇気だ。いつくしみだ。社会も、会社も変化を望んでいるんだ。そのためには挑む人になれ。少々、ハチャメチャだってかまわない。そういう姿勢が大切なんだ。地位や、名声や、金儲けだけが目標じゃダメだ。君の歩む道には光が残る。光る軌跡が見える。その道が追い風とむかい風なら、断然、むかい風を選べ。苦しいこと、辛いことを知ることは、君に力を与える。変える力を手に入れろ。力を持つための勇気を掴め。一日歩いて疲れたら、立ち上がって空を仰げ。そこには君と同じ挑戦をした若者の軌跡が星となって輝いている。さあ、勇気というグラスに希望という光があふれ出すぞ。グラスを上げよう。
私たちが百年かけてつくったウイスキーで乾杯。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 サントリーワールドウイスキー碧 Ao 新社会人新聞広告 2023年
真剣にオモロイことをやれ。
君は今日、どの街の、どんな職場に立っただろうか。どこであれ、そこが君の社会人としての出発点だ。新社会人おめでとう。君は今日から社会人として歩き出す。どんなふうに仕事をして、どんなふうに働くのだろうか。その姿が、実は君の人生のカタチ。生き方なんだ。何をやるにしても、すべて初めてのことだ。失敗だらけの日々になるに決まっている。でも失敗は君だけのことではない。先輩たちも皆も繰り返した。失敗と後悔はいつも仕事の隣りにある。そうなんだったら、君は君のやり方をして欲しい。どんなふうに?と思うだろうが、まず姿勢と心構えだ。どんな姿勢?どんな心構えか?それは、面白いぞ!と思うことをやるんだ。西の人が言う、オモロイことだ。ハチャメチャでもいい。オモロイことには夢がある。夢があるから苦しいことも辛いことも耐えられるはずだ。オモロイことには光が当たる。光の中には未来、明日がある。そう、新しい君たちの手で新しい明日を見せてくれ。オモロイことのために汗をかき、肩で息をしろ。登り坂と下り坂なら、登り坂へ。追い風とむかい風なら断然、むかい風を選べ。それが生きることを、社会を知ることだ。仕事に疲れたら、皆で集まって、笑って、君に乾杯だ。
新しい君に乾杯。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 サントリーウイスキー角瓶 新社会人新聞広告 2022年
今までにない発想と、君だけの情熱を。
新社会人おめでとう。今日、君はどこの街のどんな職場に立っただろうか。どこであれ、どんな仕事でも、そこが君の出発点だ。仕事は大変と思うかね?それとも楽しいと思うかね?そう大変でもないし、楽しいこともあるが、決してラクではない。仕事のやり方を覚える前に、ひとつ伝えておきたいことがある。私たちが、企業が、会社が、君に何を求めていると思うかね。五十年前なら、勤勉で、真面目な働き手を求めた。それも必要なひとつだが、今は違う。何を求めているか。それは、今までにない発想と、君だけの情熱だ。そして何でもやり抜く気力だ。そのために少し乱暴でも、ヤンチャでも、無鉄砲でも、意地っ張りでもかまわない。私たちは君の発想と情熱と信念が将来創りだすものを手に入れるためなら、君たちのすべてを受け止める。もう企業を、社会を、大転換させなくてはイケナインダ。金儲けだけの企業じゃダメだ。人を、社会をゆたかにする創造をなすのが企業であり、品性だ。チャレンジ精神を忘れるな。登り坂と下り坂なら登り坂を。追い風とむかい風ならむかい風に立つ勇気と品性を備えて、新しい時代にともに歩み出そう。チャレンジはいつだって孤独で、苦しいさ。でもベストをつくした夕暮れ、星を見上げて一杯やろう。
君の個性とチャレンジ精神に乾杯。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 サントリーウイスキー角瓶 新社会人新聞広告2021年
ようこそ、令和の新社会人。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな街の、どんな職場に立っているだろうか。どこであれ、そこが君の社会人としての出発点だ。今年の新社会人は少し得をしているぞ。「えっ!得ですか?」それは令和で初めての社会人ということだ。「なんだ。そんなことですか……」私も君の立場なら、そう言い「偶然でしょう」と言うかもしれない。でもそれは違うんだ。偶然は偶然だが、“偶然は神の采配だ”神の采配とは、私たちの持つ力以上のものが私たちに与えたものだ。恋愛という出逢いもそうだし、発見という進歩も実はそうなんだ。偶然をもうひとつ話しておこう。友人の話だ。「いや君、我が家では大祖父が明治の人で、祖父が大正、昭和を歩んだ。そうして私が昭和、平成を生きている。倅は平成、令和を生きる。ありがたいと思わないか。この国があり続け、私たちが生きてこられたことを…」友は感慨深く話した。たしかに素晴らしい国と、人々が今日まで歩んで来た。この脈々たる流れも偶然か?いや、私はそう思わない。それぞれの時代に皆懸命に生きてくれたに違いない。アジアの片隅の、この国で人々は少しでも前へとゆたかにと汗を流し、向かい風に立ってきた。そして何より、いつも新しい人が、新しい力を与えてくれた。昨日までとは違う日本を、国を、職場を作ろうとしたことだ。令和初の社会人の君に望む。“新しい君の力と、発想”を思いっ切り提供、提案してくれたまえ。そのバトンタッチが、いつの日か、まだ見ぬ新しい元号を口ずさむ日を迎えることになるんだ。人は己以外の人のために何かをすることだ。出世や名誉やお金だけのために生きてはイケナイんだ。しかし君、先輩たちは厳しいぞ。妥協もしないぞ。さあ立ち向かおう。君ならできる。だって君は令和最初の社会人じゃないか。少し疲れたら、空を見上げて、乾杯しよう。
令和の社会人に乾杯。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 サントリーウイスキー角瓶 新社会人新聞広告2020年
新しい人よ。個性を失うな。
新社会人おめでとう。今日、君はどこの街の、どんな職場にいるのだろう。どんな仕事であれ、そこが君の社会人の出発点だ。いきなり仕事はできそうかね? ハッハハ、そんな簡単にできる仕事など、世の中にはひとつとしてないよ。でも大丈夫だ。先輩たちは皆頑張っているだろう。苦労をしたんですか? そりゃ辛苦のない仕事はないよ。仕事にマスター法はない。でも一つアドバイスしておこう。先輩たちのやり方には理由がある。それも身に付けなくてはイケナイが、これからの時代は従来のやり方だけじゃダメなんだ。なぜかって?今、世界は日々変化して、新しいやり方、新しいゆたかさ、新しい喜びを求めているんだ。君は新しい人じゃないか。どうすればいいかって?君の、君だけにしかない個性がそれを実現させるんだ。反対されてもかまわない。笑われたってイイ。社会は、会社は、職場は、その新しい力を求めているんだ。最後に、君の個性が、自分だけがイイという品性のない卑しいものではないと信じている。出世や金だけが目的の人間になるなよ。人は品格だ。それが人間らしさだ。少し疲れたら、夕刻、一杯やろうじゃないか。新しい君に乾杯。
新しい君に乾杯。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 サントリーウイスキー角瓶 新社会人新聞広告2019年
高く、広く、大きな夢を持て。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな職場に立っているのだろうか。どんな仕事であれ、そこが君の出発点だ。君は今、自分の将来の姿を想像できるかい? それはできやしない。誰だって皆そうだったんだ。君が、どんな学歴であれ、いかなる国の人であれ、今日の出発点では、皆が平等に立っていることを覚えていおいてほしい。君たちは皆、素晴らしい何かを獲得できる可能性を持っている。それがこの国の、この社会の、自由で、ゆたかな可能性なんだ。ひとつアドバイスをしておこう。今、何かを獲得し、現役で汗を流している先輩たちは、百人が百通りのやり方で道を見つけ、歩いているんだ。ただその人たちには、ひとつの共通点があるんだ。それは日々見上げている山が、乗り出している海原が、他の人より高く、広く、誰より大きい夢を抱いているということだ。若いくせに大きなことを口にして……、そんな連中は放っておけばいい。笑われてもいい。失敗してもいい。失敗の中にこそ輝くものはある。最後に、君の夢はどんな色ですか。君の夢は皆を幸福にできますか。自分だけがイイなんて夢は卑しいんだ。明治の時代、若き一人の男が言った。「やってみなはれ」そう、まずやってみよう。その瞬間、夢は夢でなく、君の道となるだろう。山は雲が、海は波が、辛い試練を与える。でも疲れたなら夕暮れ、一杯やりたまえ。まぶしい明日に乾杯しよう。
まぶしい明日に乾杯。 伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリースピリッツ株式会社 サントリーウイスキー知多 新社会人新聞広告2018年
新しい情熱を待っている。
新社会人おめでとう 今日、君はどんな職場で社会人のスタートを迎えただろうか。どんな仕事であれ、そこが君の出発点だ。仕事とは何だろうか?私は、理想と、情熱で、獲得するものだと思う。でも今の君に、理想ある仕事はすぐには見えないだろう。汗を流し、逆風を進み、働き抜いて、ようやく見えるものだ。しかし、情熱は、今日の君の中にもあるはずだ。人を、モノゴトを、社会を動かす原動力こそが、情熱だ。
ひとつアドバイスをしよう。
十人の人間に、十色の、十のかたちの情熱があるんだ。その情熱は鍛え、磨き、時に叱咤すれば、情熱は育ち成長するものなんだ。そしてやがて君だけの情熱のかたちができてくる。それが個性だ。個性は君が生きている証しなんだ。実は、先輩たちは、君たちの新しい情熱を待っているんだ。最初はガムシャラでもイイ。暴走に見えてもかまわない。あきらめずにぶつかれば、いつか大きな壁を打ち砕く。新しいかたちの、新しい温度の情熱で、未来を作るんだ。失敗をおそれるな。辛苦に立ちむかえ。困難なものにむかう姿勢にこそ真理はある。己だけのために生きるな。それが仕事の品性であり、君の品格になる。苦しいかって? そりゃラクなものは仕事にはないさ。でも疲れたら、夕空を見上げて一杯やればいい。新しい個性に乾杯。
伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリーウイスキー知多 新社会人新聞広告2017年
挑め、燃えろ、新しい人よ。
新社会人おめでとう 今日、君はどんな職場で、この日を迎えただろうか。どんな職場、仕事であれ、そこが君の出発点だ。仕事とは何だろう?働くとは何だと思う?人間は誰でも、身体の中に、火をおこす石のかけらを持っている。働くとは、その石を打ち続けることだ。仕事とは、その火をかたちにすることだ。その火は、人々に希望を与え、こころをゆたかにするんだ。今、私たちの社会はさまざまな問題であふれている。今までのやり方では解決しないものだらけだ。だから新しい人よ、ユニークで、まぶしい、燃える君の炎が欲しい。新しい発想、力は、挑戦する中にしか生まれない。挑め、失敗してもあきらめるな。さらに挑め。困難に立ちむかう人間の中には真理がある。自分だけのために生きるな。仕事は誰かのためにやるものだ。それが人間の品性だ。仕事の品格だ。しかし本物の仕事は、辛いぞ、苦しいぞ、きびしいぞ。それでも元気に明るく、笑って走るのが新しい人だ。少し疲れたら、夕暮れ、こころを抱いてくれる一杯をやろう。新しい人よ、君に乾杯。
伊集院静 水と生きる SUNTORY サントリーウイスキー角瓶 新社会人新聞広告2016年
挑め。失敗しても起き上がり、また 挑め。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな職場に立ったのだろうか。どんな仕事であれ、そこが君の出発点だ。すぐに目を瞠るような仕事をしなくていい。本物の仕事はそんな簡単なものではない。すぐに役立つものはすぐに役に立たなくなる。それでも今、君たちに社会の皆が大いなる期待をしている。どうしてだかわかるか。それは新しい人でなければ新しい道はひらけないんだ。そのことは私たちの歩んできた道を振り返ればわかる。百の新しい道には百の歩み方があった。しかし共通していた点がひとつある。新しい人が、毅然と、困難なものへ挑んだことだ。何度も失敗を繰り返したんだ。でもあきらめなかった、挑め。失敗しても起き上がり、また挑め。失敗をおそれるな。笑われても、誹られても、挑め。困難に立ちむかう人間の生き方の中には真理がある。己のためだけに生きるな。仕事は誰かのためにやるものなのだ。それが仕事の品性だ。生きる品格だ。疲れたら、夕暮れ、一杯の酒を飲めばいい。酒は、打ち砕かれたこころをやさしく抱いてくれるものだ。
一杯がこころを抱いてくれる。 伊集院静 2015年 新聞広告 SUNTORY サントリー ウイスキー
落ちるリンゴを待つな。
新社会人おめでとう。君は今どんな職場で出発の日を迎えただろうか。それがどんな仕事であれ、そこは君の人生の出発点になる。仕事とは何だろうか。君が生きている証しが仕事だと私は思う。大変なことがあった東北の地にも、今、リンゴの白い花が咲こうとしている。皆、新しい出発に歩もうとしている。君はリンゴの実がなる木を見たことがあるか。リンゴ園の老人が言うには、一番リンゴらしい時に木から取ってやるのが、大切なことだ。落ちてからではリンゴではなくなるそうだ。それは仕事にも置きかえられる。落ちるリンゴを待っていてはダメだ。木に登ってリンゴを取りに行こう。そうして一番美味しいリンゴを皆に食べてもらおうじゃないか。一、二度、木から落ちてもなんてことはない。リンゴの花のあの白の美しさも果汁のあふれる美味しさも厳しい冬があったからできたのだ。風に向かえ。苦節に耐えろ。常に何かに挑む姿勢が、今、この国で大切なことだ。夕暮れ、ヒザ小僧をこすりつつ一杯やろうじゃないか。新社会人の君達に乾杯。
新聞広告 伊集院静 2012年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
生きる力をくれたまえ。
新社会人おめでとう。この春、君はどんな仕事に就いただろうか。どんな職場であれ、そこが君の出発点だ。社会を知るはじまりであり、なにより仕事とは何か、働くとは何かを発見する場所だ。仕事とは何だろうか。今すぐ君にわかるはずはないが、仕事とは、人が生きる力だ、と私は思う。人が生きている実感を得るものだ、と言ってもいい。いろんな人の生きる力が集まっているのが職場であり、会社であり、社会なのだ。仕事=生きる力なら、君がどんな仕事をなせるかは、君がこれからどんなふうに生きてくかにかかっている。人を押し倒して生きていけるか。弱者に手を差しのべずとも平気か。私たちがそうしないのは、誰の生にも尊厳があり、誇りを持っていたいからだ。同じようにどんな仕事にも尊厳があり、誇りがある。己だけよければいい、富が、金が力の発想は下衆で、卑しいのだ。本物の仕事は、生きる力は、己以外の誰かのために存在している。本物の仕事に出逢うには、君の力を惜しまないことだ。全力でぶつかることだ。君の生きる力をくれたまえ。出発点に立った君に真新しいリボンのついたシャンパンで祝おう。いつか君が生きている実感を得る、その日のために乾杯。
その日のために乾杯。 伊集院静 新社会人新聞広告2005年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
ハガネのように 花のように
君が今立っている職場が、君の出発点だ。さまざまなことが起きている春だ。働くとは何か。生きるとは何か。日本人皆が考え直す機会かもしれない。世界中が、これからの日本に注目している。彼等が見つめているのは日本人ひとりひとりの行動だ。日本人の真価だ。国家は民なのだ。ひとりひとりの力が日本なのだ。力を合わせて進む。しかし力を合わせるだけではダメだ。一人の力を最大限に出し、強いものにしなくてはいけない。
新しい人よ。今は力不足でもいい。しかし今日から自分を鍛えることをせよ。それが新しい社会人の使命だ。それが新しい力となり、二十一世紀の奇跡を作るだろう。ハガネのような強い精神と、咲く花のようにやさしいこころを持て。苦しい時に流した汗は必ず生涯のタカラとなる。ひとつひとつのハガネと、一本一本の花は、美しくて強い日本を作るだろう。美しくて強い日本人、職場を作ろう。その時こそ笑って乾杯しよう。
新社会人おめでとう。 新聞広告 伊集院静 2011年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
先駆者になれ。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな職場で目の前を見ているだろうか。どんな仕事であれ、そこが君のスタートラインだ。新しい道が君の前にある。しかしその道はまだ見えない。新しい道とは何だろうか。それはまだ誰も分け入ってない場所に君の足で踏み込んで初めてできるものだ。そこはまだ闇のような世界かも知れない。光も音も感じないかもしれない。しかし勇気と信念があれば、必ず光はさしはじめる。明るい音も聞こえてくる。新しい道を踏み出せ。先駆者になれ。そうして誰もまだ見たことのない、まぶしい世界を見せてやろう。そのためには力が、汗が必要だ。やわらかな発想と強靱な精神を持って、ともに汗を流そう。新しい道をつくろう。後から続いて来る人たちの歌声を聞く日まで私たちは、一人一人が先駆者になろう。仕事は辛いぞ。苦しいぞ。でも自分だけのために生きているのではないことがわかれば、必ず道はひらく。少し疲れたら夕空を仰ぎ美味い一杯をやろう。新しい道を踏み出す君に乾杯。
君に乾杯。 伊集院静
新社会人新聞広告2014年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
踏み込め、踏み込め!失敗を恐れるな!
芸能人は昼でも夜でも「お早うございます」と言う。これ頗る評判が悪いのだが、僕は声を掛け合うのは良いことだと思っている。山登りをする人はすれ違うときに「こんにちわ」と声を掛ける。村の小学生も「コンニチワ」と言う。会社でも同じことなんだ。人に会ったら「お早う」「お早うございます」と言おう。野球の名監督だった三原脩は、守備位置についた選手に「声を出せ」と言った。黙っていると孤独になり塁間が遠く感ぜられると説明してくれた。簡単なようで、これ、案外に難しい。照れ臭いお客さん相手の商売の人は「いらっしゃいませ」と声を掛けるときに、最初は抵抗があるという。一歩踏み込めと僕は言う。挨拶に限ったことではない。難局に遭遇したら、あきらめたり退いたりしないで踏み込んでゆく。不平不満を言いながら、すぐに若年寄になってしまう社員がいる。こういう人たちは最後までブツブツ言いながら不愉快な社員生活を送ることになる。踏み込みが足りなかった人たちだ。特に最初に一歩が肝心だ。諸君は新人だ。一年生だ。フレッシュマンはフレッシュマンらしく、と僕なんかは思う。元気溌剌は見ていて気持がいい。踏み込め、踏み込め!失敗を恐れるな!一日を気持よく過ごせば、夕方のハイボールや水割が気持よく飲める。そんな好青年の新入社員(きみ)に乾盃!新社会人おめでとう。
新入社員諸君。一歩踏み込め! 山口瞳 サントリーウイスキーオールド 春 就職 お酒 新聞広告1994年
可能性にむかって、汗をかけ。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな街で、どんな職場で、どんな仕事に就いただろうか。どんな仕事で、どんな職場であろうが、そこが君の新しい出発点だ。そこには必ずかがやく君の明日がある。今の君には見えないかもしれないが、仕事とは何かをかなえるためにあるんだ。何かとは、まぶしい明日だ。未来だ。信じて欲しい。仕事とは素晴らしい可能性を持つものなのだ。そのためにはベストをつくせ。可能性にむかって、汗をかけ。私たちが信じた可能性を君たちも信じてくれ。信じるもののために、汗を惜しむな。今、君が出す汗が、どれほど貴重で、どんなにまぶしいか やがてわかる時がくる。フレッシュマンよ、今日からは自分だけのために生きてはいけない。仕事とは誰かを、社会をゆたかにするものだ。その汗は、苦しい、辛いことをともなうぞ。くじけそうになった日は、夕刻、美味い一杯をやれ。そうすれば、明日もやれそうだと力が湧いてくるものだ。
まぶしい君に乾杯。 伊集院静
新社会人新聞広告2013年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
人がまずあるのだ。
新社会人おめでとう。今春、君はどんな仕事に就いただろうか。どんな職場であれ、君の新たな人生がそこからはじまる。仕事をする場所とは、何だろう?会社であれ、工場であれ、仕事ができる場所は素晴らしい空間なんだ。どうして素晴らしいか?そこで何かが生まれ、何かが作られるからだ。仕事とは、何かを生み、作り上げ、それが人々をゆたかにするものだ。だから仕事には慈愛があり、尊厳があるのだ。それ以外を仕事とは言わない。社会が先にあったのではなく、人がまず何かを作りはじめたのだ。権力や、金を得るために仕事があるのではない。人がまずあるのだ。仕事は君の生き方だ。会社は君の生きる家なんだ。品性のある仕事は、君に品格のある生き方を教えてくれるだろう。こう話してもすぐにはわからないだろう。コツを教えよう。恋愛指南のようだが、君が恋人を好きなように仕事を好きになりなさい。君が最愛の人を愛するように職場を愛することだ。そうすれば君は将来、人生で何よりも価値のある、誇りと品格を手にできる。とてもできそうにないって?それが大人の日々というものさ。そんなときは一杯のシングルモルトウイスキーに聞いてみればいい。「私は大丈夫でしょうか」「大丈夫ですって、乾杯」
新社会人新聞広告 伊集院静 2006年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
仕事の喜びとは何か?
新社会人おめでとう。君は今春、どんな職場でどんな仕事に就いただろうか。そこが君の出発点だ。君を迎えた人たちは皆、こころから祝福している。どうして皆がおめでとうというのだろうか。世の中にはさまざまな事情で働けない人たちが大勢いる。その人たちの夢を私は聞いたことがある。「どんな仕事でもいいから働きたい。働いて一人前の人として生きたい。」皆知っているんだ。仕事をする。働くことがどんなに素晴しいかということを。仕事とはきびしいものか? それはきびしいに決まっている。仕事はつらいか? 勿論、つらい時もある。耐えなくてはいけない時があるか? ある、ある。でもそんなものは仕事の一部分でしかない。仕事には私たちを辛苦に耐えさせる何かがある。働くことで人は今の社会を作ってきた。そうでなければとうに人類は地球から消えている。すべての人に生に尊厳があるように、どんな仕事にも尊厳がある。生きる喜びがあるように、仕事にも喜びがあることを君はいつか知るだろう。仕事の喜びとは何か?結果を称えられることか。金を得ることか?そんなちっぽけなもんじゃない。それは仕事をしていて、自分以外の誰かの役に立っていることがわかることだ。それこそが仕事の真の価値なのだ。初仕事をはじめる前に守って欲しいことがある。それは今まで君が生きてきて大切にしていたものを捨てないことだ。ファッションでも、音楽でも、恋愛だっていいんだ。大切にしているものにはそこに個性がある。個性は君そのものであり、創造の原動力だ。皆が同じカラーで仕事をする時代は終わったんだ。いつか個性が役立つ時がくる。いつか喜びを知る時がくる。目指す頂きは高いぞ。その時のために身体をこころを鍛えておこう。君の出発の日に乾杯。
君の出発に乾杯。新社会人新聞広告 伊集院静 2008年 SUNTORY サントリーウイスキー
誇り高き森を作ろう。
新社会人おめでとう。今春、君はどんな仕事に就いただろうか。どんな仕事であれ、そこから君の新たな人生の第1歩がはじまる。今の君は、一本の若い樹だ。幹も細く、遠くを見渡せる丈もない。強風に、激しい雨に倒れてしまう不安もあるだろう。でも君は倒れない。どんな風にも雨にも立ち向かうだろう。 なぜなら君の中にはあふれる生命力と希望を抱いた根があり、君を支えているからだ。最初は、皆同じ若い樹だったんだ。根っ子からいろんなものを吸収し、カンカン照りに、凍える寒さに耐え、青空にむかって伸びてきた。会社は、職場は、そんな樹たちが集まった森なんだ。皆で素晴らしい森を作ろうじゃないか。森は新しい力を、君という樹を待っている。同じかたちの樹はいらない。個性ある君だけの樹が欲しいんだ。いろんな樹が集まった森はずっと生き続ける。森が恵みを与えるように、会社は人々をゆたかにするものだ。そんな会社がこれからの時代を作る。 生命力が、エネルギーが仕事を発見する。 希望が仕事に誇りを与える。 いつか君が成長し、逞しい幹と、しなやかな枝と、まぶしい葉をたわませた見事なかたちの樹になってくれると期待している。そうなれば私たちの森は、会社は、今よりもっと美しいものになるはずだ。大切なのは土の中に、胸の中にある根だ、精神だ。誇りと品格だ。自分を、人を、社会をゆたかにしたいと願う精神だ。少し疲れたなら、星灯りの下、木蔭にたたずんで休めばいい。星を映したグラスにシングルモルトウイスキーを注ごう。美しい森になる日を夢見ながら、乾杯。
美しい森の夢に、乾杯。新社会人新聞広告 伊集院静 2007年 SUNTORY サントリーウイスキー
その仕事はともに生きるためにあるか。
新社会人おめでとう。君は今春、どんな仕事に就いただろうか。どんな仕事、職場であれ、そこが君の出発点だ。今、世界は経験のしたことのない不況にある。金を儲けるだけが、自分だけが富を得ようとする仕事が愚かなことだと知っていたはずなのに、暴走した。なぜ止められなかったのか。それは仕事の真価を見失っていたからだ。人を騙す。弱い立場の人を見捨てる。自分だけよければいい。それらは人間の生き方ではないと同時に仕事をなす上でもあってはならないことだ。仕事は人間が生きる証だ、と私は考える。働くことは生きることであり、働く中には喜び、哀しみ、生きている実感が確かにある。だから出発の今、真の仕事、生き方とは何かを問おう。その仕事は卑しくないか。その仕事は利己のみにならないか。その仕事はより多くの人をゆたかにできるか.その仕事はともにいきるためにあるか。今何より大切なのはともに生きるスピリットではないだろうか。一人でできることには限界がある。誰かとともになら困難なものに立ち向かい克服できるはずだ。会社とは、職場とはともに働き、生きる家である。仕事は長く厳しくが、いつか誇りと品格を得るときが必ずくる。笑ってうなずく時のために、新社会人の今夜はともに祝おう。その日のために、皆で、ハイボールで乾杯。
その日のために、皆で乾杯。新社会人新聞広告 伊集院静 2009年 SUNTORY サントリー角瓶 ウイスキー
千載一遇。汗をかこう。誇りと品格を持て。
新社会人おめでとう。この言葉を私は十年、フレッシュマンたちに贈ってきた。だが今年は少し趣きをかえる。何十年に一度の不況の時に君は出発する。これを不運と思うか? 違う。チャンスだ。今この時こそが”千載一遇”の時だ。(辞書を引きなさい)今、日本も、世界もさまざまなものが変わろうとしている。政治のあり方も、経済のとらえ方も、企業の理念さえ揺らいでいる。あらゆるものが見直されている。自分たちだけが富や幸福を得ればいいという考えでは世界は閉塞するのがわかった。エリートや、特権を持つ人々のやり方は通用しなくなった。では何もかもが変わるのか? 違う。世の中がそう易々と変わるものか。
道に迷ったら元の場所に帰るのだ。初心にかえろう。基本にたちかえろう。皆がしてきたことをやるのだ。”汗をかこう”懸命に働くのだ。これを君たち若者がダサイと思うなら、君たちは間違っている。真の仕事というものは懸命に働くことで、自分以外の誰かがゆたかになることだ。汗した手は幸福を運んでいるのだ。だから仕事は尊いものなのだ。仕事は君が生きている証しだ。ならば働く上で、生きる上で大切なものは何か。姿勢である。どんな?それは揺るぎない”誇りと品格を持つ”ことだ。これを実行しようとすれば、それは夕刻には疲れもでるだろう。そんな夕暮れは、喉に爽風とおるがごときハイボールの一杯で元気をとりもどそう。
君に乾杯。 新社会人新聞広告 伊集院静 2010年 SUNTORY 山崎 サントリー シングルモルトウイスキー
誇り高きゼロであれ。
新社会人おめでとう。この春 君はどんな職場に立っているのだろうか。どんな職場であれ、そこが君の出発点だ。君の本当の人生がそこからはじまるんだ。学業優秀ではなかった?エリートなんて高が知れている。先輩達はそんなもの期待なんかしちゃいない。出発の君は、0(ゼロ)だ。0はイイ。これから何だってできるし、何にだってなれる可能性のある0だ。無限大にむかう0だ。皆、0からはじめたんだ。すぐに1に、2になる必要はない。本物の仕事は、そんな簡単なものじゃない。すぐに役立つものはすぐに役に立たなくなる。真の仕事には、強く、ゆるぎない心棒がある。その心棒は君が生まれてこのかた触れたことがない、熱い温度を持っている。そのぬくもりを、熱さを、こしらえているのは人間だ。世界を、国を、社会を前に進めてきたのは、その情熱だ。情熱の源は何だろう?私は、誇りだと思う。人間の誇りが苦しい時も辛い時も、心棒を握りしめ車輪を押し続けたのだ。君は仕事に誇りを持てるか?それをしっかり見つめることだ。まずそこからはじめよう。誇り高き0でいて欲しい。0は時折、せつないが。そんな時は一杯のグラスにウイスキーを注いで飲み干そう。
0君に乾杯。 伊集院静 SUNTORY サントリーウイスキー 新社会人新聞広告2004年
熱い人であれ。
新社会人おめでとう。今春、君はどんな職場にたったのだろうか。そこがどんな職場であれ、君は、元気に、堂々と、そこに立って欲しい。だって、元気以外に、君が今できることは他にないんだ。学業が良くなかったって?そんなことはたいしたことじゃない。エリートだけが動かす社会が、いかに非人間的で、愚かなものか皆わかりはじめたんだ。社会は生存競争の場所じゃないんだ。学校とも、試験とも違う。百の仕事には、百の答えがあるんだ。何かがすぐできるほど社会の仕事は簡単じゃないんだ。これから先、十年、二十年・・・・かかって、仕事の真の価値は何か?を発見して行くんだ。私は、どんな仕事にも、大小かかわらず、心棒があると思っている。その心棒で動く歯車が誰かをゆたかにするために回っているんだ。自分だけのためでなく、汗を、気力をしぼるから、本物の仕事は、美しいんだ。心棒を動かすには、エネルギーがいる。エネルギーの根源は、働く人、一人一人の胸にある情熱だ。どんなものに対しても、いつも熱い人が仕事の肝心を掴めるんだ。君、熱い人であれ。叱られても、怒鳴られても、吐息を零されても、そんなもの跳ね返し、心棒を回す人になって欲しい。元気すぎるようなら、夕暮れ、酒場のカウンターで、熱いこころに少し氷を入れて、グラスを挙げればいい。
伊集院静 SUNTORY サントリーウイスキー 新社会人新聞広告2002年
抵抗せよ。すぐに役に立つ人になるな。
新社会人おめでとう。君は今日どんな仕事に就いただろうか。職場はどんな街にあるのだろうか。そこから君のすべてがはじまるから、目の玉を大きく開いて、君の居る場所と仕事を見ることを、私はすすめる。何が見える?ここはちょっとおかしい、とか、これは間違っているんじゃないかというものが見えるだろう。その時、これが社会か、これが仕事というものかと結論を出さないことだ。君の見間違いなら先輩が教えてくれる。そうでなければ抵抗することだ。主張することだ。この時世、社長も、上司も、親方も、若い君たちの意見と、発想を待っている。どんな工房だって、商店だって、工場だって、会社だって、歴史から見れば、昨日、誕生したようなものだ。それも君のように若い人たちが作ったのだ。抵抗しろ。改革しろ。妥協するな。役立たずと蔭口を言われても気にするな。すぐに役立つ人間はすぐに役立たなくなる。仕事の真価はすぐの周辺にはないのだ。君には新しい力がある。抵抗は辛いぞ。孤立するぞ。そんな時は仕事が終わった夕暮れ、街を見回してみればいい。君のような社会人を待っている店灯りはいくつもある。価値ある仕事は街の人のためでもあるのだから。一杯のグラスは君の抵抗にうなずいてくれる。最後にもう一言、すぐに酔う酒は覚えるな。
抵抗せよ。すぐに役に立つ人になるな。すぐに酔う酒は覚えるな。 伊集院静 SUNTORY サントリーウイスキー 新社会人新聞広告2001年
空っぽのグラス諸君。
新社会人おめでとう。今日、君はどんな服装をして、どんな職場へ行ったのだろうか。たとえどんな仕事にといても、君が汗を掻いてくれることを希望する。冷や汗だってかまわない。君は今、空っぽのグラスと同じなんだ。空の器と言ってもいい。どの器も今は大きさが一緒なのだ。学業優秀などというのは高が知れている。誰だってすぐに覚えられるほど社会の、世の中の、仕事というものは簡単じゃない。要領など覚えなくていい。小器用にこなそうとしなくていい。それよりももっと肝心なことがある。それは仕事の心棒に触れることだ。たとえどんな仕事であれ、その仕事が存在する理由がある。資本主義というが、金を儲けることがすべてのものは、仕事なんかじゃない。仕事の心棒は、自分以外の誰かのためにあると、私は思う。その心棒に触れ、熱を感じることが大切だ。仕事の汗は、その情熱が出させる。心棒に、肝心に触れるには、いつもベストをつくして、自分が空っぽになってむかうことだ。それでも諸君、愚痴も出るし、斜めにもなりたくなる。でもそれは口にするな。そんな夕暮れは空っぽのグラスに、語らいの酒を注げばいい。そこで嫌なことを皆吐き出し、また明日、空っぽにして出かければいい。案外と酒は話を聞いてくれるものだ。
空っぽのグラス諸君。一杯の語らい。 伊集院静 SUNTORY サントリーウイスキー 新社会人新聞広告2000年